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2022.03.04 / ブログ
オオイヌノフグリの繁殖戦略
3月。早春。
まだ寒さを感じる日もありますが、晴れて風の無い日にはビジターセンターの園地に春を告げる小さな草花を見つけることができます。今回はそんな草花の中からオオイヌノフグリを紹介します。
オオイヌノフグリは、早ければ1月下旬くらいから花を咲かせます。花を咲かせるのは蜜を出してチョウやハチを呼び寄せ花粉を運んでもらうためで、春にはそんな昆虫たちが花から花へと忙しく飛び回る光景を見ることができますね。
でも、1月下旬に花を咲かせても、チョウもハチもまだいません。花粉を運んでもらえません。花粉を運んでもらえないということは受粉できないということで、受粉できなければ繁殖のために必要な種子を作れないということで、あらら、困ったぞ・・・??
が、そうはならないのがオオイヌノフグリのしたたかなところ。
オオイヌノフグリの花が咲いているのは昼間だけで、夜には花を閉じるのですが、閉じるときに花びらが雄しべを内側に押し込みます。雄しべの先には花粉が付いており、押し込まれることでその花粉が自分の雌しべに触れて受粉する・・・という仕掛けになっているのです。
下の写真を見ていただければわかるように雄しべは花の内側に向かって湾曲しており、閉じようとする花びらに押された時に雌しべの先端に上部からかぶさって触れることができるような、絶妙な位置関係になっています。
自分の花の雄しべから出た花粉を自分の雌しべに付けて受粉することを「自家受粉」というのですが、自家受粉でできた種子はその個体のクローンなので、遺伝的な形質はその個体と全く同じ。いっぽう他の花の花粉による受粉(「他家受粉」といいます)でできた種子には他の個体の遺伝子が入っており、形質は多様になります。環境の変化などに適応して生き残るには形質が多様な方が有利だといわれています。
「自分の子孫を残すこと」は、生き物にとってものすごく大事なこと。
そのために、オオイヌノフグリは「自分と同じ子孫を残せる自家受粉」と「環境が変わっても生き残れる可能性の高い子孫を残せる他家受粉」という二通りの戦略でしたたかに生きているのです。
※自家受粉と他家受粉という二通りの戦略をとる植物は、他にスミレ類やホトケノザ、セイヨウタンポポなど、身近な植物の中にも多くあります。